ぼくの本心は、次の通り。
「転校早々そんなこと喋ったら、絶対にイジメられるよ」だ。
中学1年の教室に転校生が来て、
「前の学校で好きな男の子いた?」という話題が出るのは、当然。
「付き合っていた人がいた」
「卒業式の前日に、二人で泣きながら別れ話をしたの」
普通の十二歳には、羨ましい。
平均的十二歳が羨ましがりそうな話は、別れ話だけじゃない。
だから、自重して欲しかった。
転校生が、そんな話題で注目を浴びたら、多くの敵を作るはずだ。
でも、本当のことは言えない。
「ぼくが、イイ男過ぎるから」とは、さすがに自分から言えない。
今になって冷静に思い出すと、
卒業直前の3月に、ぼくは随分と時間をかけ玲奈ちゃんを説得した。
結局、どうしても言えなかった。
彼女は、ぼくが障碍を気にしているのだと信じたまま、転校した。
玲奈ちゃんの死が、自殺でないと分かった今、
彼女には自分のことを口止めして、自分は彼女の話をした矛盾。
その矛盾は、昔から自覚していた。
心配したぼくは、二重の失敗をした。
玲奈ちゃんの自殺を食い止める電話は、自分でかけるべきだった。
何の連絡がなくても、それなら良い。
新しい友達に、「忘れられているんじゃねーの」と、馬鹿にされて終わる。
本人の電話でも、それはそれで良い。
新しい友達に、「自分で別れ話しておいて、未練タラ男」と笑われて終わる。
ぼくの選択した、第3の方法は、
自分では電話をせず、母親に電話をさせるという生意気な方法。
女子中学生の視点では、
ちょっと格好良すぎるというか、何とかケチをつけたくなるもの。
そこで障碍を馬鹿にすると、
玲奈ちゃんは「ここぞ」と反論して、火に油を注ぐ結果になった。
二重の失敗というのは、人選で、
他に頼める人がいないからといって、統合失調症の母に頼んだこと。
ぼくの心配は、的中していて、
母は、「くれぐれも1月18日には自殺しないように」と繰り返したのだ。
それは、教唆と同じである。
小脳出血で、身体障碍者になったぼく。
玲奈ちゃんは、「私のラブレターのせいかも知れない」と思い詰めた。
他の同級生が、冷静に見守る中で、
彼女は、「私のせいかも知れない」と思ったから、最後まで尽くしてくれた。
その玲奈ちゃんの想いに、ぼくが感動。
玲奈ちゃんの、「私のせいかも知れない」に、当時のぼくは気付いていた。
だからこそ、男として別れ話をした。
ぼくの、「これ以上は、君を縛り付けたくないんだ」という展開になった。
ぼくは、こうも言いたかっただろう。
「これは恋じゃない。罪の意識からの同情だ。君は、恋に恋している」
「だから、新しい友達に話しちゃ駄目だ」
「これは恋ではないにもかかわらず、一級品の恋に良く似た話だから」
ところが、玲奈ちゃんに伝わらない。
玲奈ちゃんの自殺は、12歳当時のぼくのボキャブラリー不足が原因?
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