<<解説>>
その高校2年の秋の、表現祭。
MiMiC の表現祭特別号に載った、Sion.S. の漫画を良く覚えているのである。
「萩尾は、いつも笑っていた」
そんな書き出しで始まる、同級の女子生徒の笑顔に違和感を抱く男の子の物語。
−来栖君じゃなかったっけ?−
おはなし
萩尾さんの笑顔に、違和感を感じていた来栖。
クラスメイトは誰も気付かないのか、みんな、気付かない振りをしているのだろうか。
ある日、屋上に忘れた本を取りに行った彼は、空を見上げている萩尾に会う。
それ以来、萩尾さんのことが気になって仕方がない。中学時代からの悪友に相談する。
悪友 「何。萩尾のことが気になるの? でも、あいつは、ちょっとな・・・」
来栖 「ちょっと、何だよ」
悪友 「こういうことって、あんま人に言っていいのか分かんないけど・・・」
−萩尾、中学の時、すごい仲良い彼氏いてさ
−そいつ、卒業前に、事故で・・・・・・
来栖は屋上に走って行く。
来栖 「笑うなよ。どうして、そんな、笑えるんだよ」
萩尾 「来栖君。どうし・・・・・・ 聞いたんだ、あの人のこと」
来栖 「笑うなよ。そんな辛そうなの、そいつだって、見たくねえよ」
萩尾 「そうね。でも、ダメなんだ。私・・・・・・」
萩尾 「それまで、どうやって笑っていたか、どうしても思い出せないんだ」
卒業式で別れて以来、萩尾とはもう会っていない。
でも、時々思うんだ。彼女は今も、同じように笑っているのかと。
ぼくから、「旧友の自殺」を口止めされた TAMAKI は、
Sion.S. に、「岡澤の過去を想像で漫画にするのは不謹慎だ」と忠告したはず。
Sion.S. の、「岡澤君が話すきっかけになれば」の反論で、
TAMAKI は、「実は、岡澤の小学校の同級生が自殺したらしいんだ」と説明しただろう。
実話を匂わすコメントも入れて、緊張が高まる友人一同。
だが岡澤の言葉は、「実話って、もしかして亜友の体験談?」という的外れなものだった。
一気に緊張が去った。
考えてみると、あまりに井手部らしすぎる解決策の試みである。
だが、事実は漫画よりも奇なり。
岡澤の衝撃は、「どうやって笑っていたか忘れてしまった」レベルではなく、
彼女の自殺の記憶そのものを無くした。
ただし、ぼくは自分の記録を読む限り、「誰か死んでいてもおかしくないな」と。
−それで、亜友の物語かと思ったのだ−
TAMAKI には、高校3年の春に、記憶喪失を打ち明けた。
だが、記憶喪失という現象が新奇だったから、半年前の出来事が陰に隠れた。
2008年、岡澤の同級生は、自殺でなく殺害と判明した。
殺人という猟奇性に、「ああ、それで岡澤も羽生もパニックだったのか」と納得。
つまり、「岡澤と亜友の友人」の「殺人事件」だと理解した。
犯人の息子である羽生がパニックになるのは分かるけど、岡澤の方は言い訳である。
−渇を入れてやろうと、『ブラックオクトウバー』−
今の話の流れだと、殺されたのが亜友の元カレという話は、岡澤が発案者である。
2010年、別の同級生ルートから、さらに真実が伝わってきた。
「お前ら、友達だろ。『最愛の恋人』の『自殺』に、何で気付いてやれなかった!」
「同級生」の「自殺」の「記憶」ですら、高校生には心の傷だが、
「最愛の恋人」の「殺人事件」の「記憶喪失」は、身近な事件じゃ有り得ないよ・・・・・・
小川三四郎探偵事務所
代表取締役社長 岡澤代祐
sanshiro@sastik.com
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