屋根の上の公文式優秀児たち

  −帰る場所もない人生のパレスチナ−




 あらすじ (本編は、原稿が別にあります)





  第一部 −亜友♀ side story



 両親の夫婦喧嘩を見て育った亜友。
過酷な家庭環境に知能が正常に発達しなかった、知的障害児

 言語障害はなく、お喋りだった。
亜友は、卒業したら家を出て夫婦喧嘩のない世界で暮らすのが夢だった。

 甘いお菓子が、大好きだった。
初対面の岡澤の前で、お菓子の家に暮らす壮大な夢を語る亜友だった。

 亜友のスケールに、岡澤は驚いた。
未解決問題を解いて世界的な数学者になるなど、卑近な夢に思えた。



 亜友は何故か公文国際学園にいた。
中学2年の岡澤と亜友は、数学の授業中に仲良くなっていった

 授業を聞いても理解できない亜友。
後ろの席には、授業を聞かなくても理解できる岡澤が座っていた。

 授業を受ける理由が存在しない。
諦めた学年主任の数学教師は、2人に特別の許可を与えてやった。

 体育の授業でも2人は特別だった。
数学の授業の恩返しに、岡澤に馬跳びの特訓をする亜友だった。



 当時の岡澤は知らないことだが、
亜友は半導体商社グループの跡取り一人娘で、お金持ちだった。

 両親は、既に知能回復を諦めていた。
そんな中で亜友は岡澤と知り合い、岡澤はすぐにお婿さん候補。

 亜友家には、非嫡出子がいるようで、
亜友・母は、娘と岡澤を結婚させて、夫の会社を岡澤に継がせたい。

 ところが、クラス替えで疎遠になる。
岡澤は数学の、人工知能理論の研究に没頭して、亜友を追わない。





 中学3年の夏休み頃という。
売春で家出資金を作ろうとした亜友は、警察に補導された。

亜友・母 −貴女に優しくしてくれる男の人には裏があるの。信じちゃダメ!−
「お父さんも、貴女にお菓子をくれるのは、お母さんと喧嘩した時でしょ!」

−信じていた「お菓子」に裏切られた亜友は、誰も信じられなくなる。




 そこで、次の計画を立てる。
家出のため、色仕掛けで岡澤を落とそうとする亜友

 亜友は高等部の図書館で、岡澤に乳房を擦りつける。
だが図書館の中で、岡澤には亜友の意図が全く理解できなかったのだ。

 通常の女子生徒はこの方法をとらない。
数学者に対しては、「数学を教えて」という誘い文句が標準だろうから。



 色仕掛けには動じず、様子が変な岡澤。
亜友は、「岡澤は私の知らないところで遊んでいる」と結論していた。

 つまり、両親の夫婦喧嘩の再現である。
だが、そのくせ高校1年の亜友は、父親の婚外子の存在を「知らない」と言う。

 亜友は、ついに卒業後の結婚を言い出す。
提案に前向きな返事をした岡澤の前に、亜友の勘違いが炸裂した。








  第二部 −岡澤♂ side story



 母親の私生児として育てられた岡澤。
小学5年の冬に小脳出血で倒れ、1ヶ月の昏睡状態の後に身体障碍を負う

 岡澤の母親は、緊張型の統合失調症で、
正確に4年10〜11ヶ月周期で発作を起こして、その度に誰かを殺そうとしている。

 岡澤が7歳の時の標的は、2歳の妹で、
小学2年の頃は、「天才子育て小学生」として、同級生の母親から評判の的だった。

 そんな岡澤が、11歳で身体障碍を負い、
一方で岡澤は数学力を買われ、公文国際学園に招待され男子寮に放り込まれた。



 そんな岡澤の前に、亜友が出現する。
中学2年の教室で、前の席の彼女は「お菓子の家で暮らす」夢を、熱く語る

 何が起きたのか理解できない岡澤だが、
脳外科病棟の知的障碍者や、3歳時の妹との類推で、亜友の扱いは慣れたもの。

 一方、公文国際学園に買われた数学力。
岡澤は数学の授業中には、大学2年相当の「群論」の教科書を読んでいたのだった。

 数学の授業を免除された二人だった。
「岡澤だけズルイ」という亜友の指摘で、岡澤は亜友の相手をしてやっていた。



 だが岡澤の家庭は、こんなに牧歌的ではなく、
岡澤は小学1年の頃には、父親の左腕の傷が銃創であると突き止めていた

 しかし、考えてみるとこれは父親だけでなく、
岡澤の喉には人工呼吸器の穴の痕があり、首の後ろには決定的な縫合の痕がある。

 さらに岡澤の父親は、この銃撃事件が原因で、
解離性同一性障害=いわゆる多重人格障害を発症して、ときどき記憶喪失になる。

 すると、統合失調症の母親も、親戚一同も、
どう対処して良いか分からず、全会一致で「放っておこう」という結論になるのだ。





 それでも、岡澤はカタギの道を歩み続けた。
しかし、数学オリンピック日本代表候補になった岡澤に、壮絶な悲報が届く

 カタギの女の子には思えない、亜友からの求婚。
カタギの道を歩んでいく自信を無くした岡澤は、彼女の求婚に前向きな返事をした。








  第三部 −達弥♂ side story



 達弥も、公文国際学園に招待された。
岡澤よりもさらに訓練され、英数国独仏の5教科制覇を達成している。

 達弥の場合は、露骨である。
公文公著「新公文式算数のひみつ」に写真入りで登場する、広告塔である。



 達弥の家庭も、複雑だった。
父親も母親もバツイチで、それぞれに連れ子という5人家族だった。

 達弥は寮で、漫画を集めた。
少年漫画の中に異色の「ママレード・ボーイ」が置いてあった不思議だ。

 さらに家庭を暴露してしまうと、
両親は結局、再度離婚して達弥は父親の家で引き籠もっていると聞く。



 達弥は、正常に発達しなかった。
公文国際学園入学以降、不良グループの使い走りを繰り返していた。

 喫煙がバレて、福祉活動を命じられた。
当時の男子寮環境副委員長、空き缶回収のリーダーが岡澤だった。

 達弥の身の上話などを聞いてやる岡澤。
そんな達弥が警察に補導された夜、偶然にも岡澤が第一発見者になる。

 退学の危機だと、相談を受ける岡澤。
寮スタッフを相手に事態を手際よく処理し、達弥の退学を回避した岡澤。





 2人は、当然のように仲良くなった。
同性愛に発展する余地はあったものの、岡澤は同性愛を拒否して退寮

 亜友との婚約は、達弥にも相談する。
達弥が露骨に亜友への嫉妬を表明したので、岡澤は困ってしまったのだ。

 だが、達弥も自分の性別を心得ている。
達弥は岡澤に、「卒業後は3人で一緒に暮らそうぜ!」と前向きに提案する。

 達弥の、3人で一緒に暮らす提案。
達弥は、「ママレード・ボーイ」を読んで育ったのだから、自然な発想だ。



 さらに、亜友も2人の空き缶回収を目撃。
亜友の世界観の中では、達弥が不倫相手の女子生徒に見えたのだ

 「勝てる気がしない」家庭に育った3人。
岡澤♂を巡る亜友♀と達弥♂の三角関係を、誰が想像できたものか。



















「屋根の上の公文式優秀児たち」

  物語後半サブタイトル −俺の娘がこんなにふつつかなわけがない−




  第四部 −「愛していると言ってくれ」



 そもそも岡澤は、亜友と関係していない。
キスも済ませていない婚約に、岡澤の想像力は限界を超えた

 その「婚約」を基に、不倫を責められる。
しかも岡澤は他の女生徒とも、特にキスしたこともなかった。

 亜友は、両親の夫婦喧嘩の口上を真似る。
学年の同級生は、「コソコソ悪いこと」を誰も翻訳しなかったのだ。

 心配した誰かが「ストーカー?」と言い出し、
言葉の意味を深く考えない亜友は、岡澤をストーカー呼ばわりした。



 空き缶回収が不倫、不倫が「コソコソ悪いこと」、
そして「コソコソ悪いこと」がストーカーに翻訳され、大騒ぎだ。

 亜友は、肉体的な暴力もふるう。
岡澤が自分をバカにした制裁という、言葉の暴力も激しい。

 岡澤をストーカー扱いする言葉の暴力。
男である岡澤に反論の権利はなく、翻訳も不可能だった。

 学校中で「ストーカー」呼ばわりされて、
「空き缶回収との関連性」に思い至るためには、16歳は経験が浅い。



 ストーカー騒ぎに、達弥も逆上する。
元の不良グループが、「ストーカー野郎の手下」と達弥を挑発した。

 嫉妬も含め、達弥は亜友に殺意を抱く。
単純な三角関係なのだが、岡澤の想像力が追いつかなかった。

 亜友が、達弥に嫉妬する理由がない。
亜友とも達弥とも「プラトニック」であり、達弥は恋愛対象ですらない。



 岡澤には、想像以上に多くの敵がいた。
授業中に女の子と遊んでいて、それで数学の成績は誰にも破れない

 ものすごく、鼻持ちならない奴である。
憧れよりも、憎悪の対象になることの方が圧倒的に多いのは当然である。

 そんな奴が、ストーカー扱いされている。
学年中の生徒たちが、亜友に味方して岡澤を追いつめる祝祭的興奮だった。





 ふいに、岡澤の口から女子生徒の名前が出た。
亜友は猛然と攻撃を開始し、次々と女子生徒の名前を引き出す。

 ところが、全部自分の知り合いである。
日曜日に岡澤が肩を抱いていた女子生徒の名は、出てこない。

 私をバカにしている、と怒る亜友。
しかし、この文脈で岡澤が達弥の名前を出すことはまずない。

 亜友は、岡澤の不倫を疑わない。
まさか友達と空き缶回収をしているだけとは、想像もつかない。



 報復に、学校中で「岡澤はストーカー」と騒ぐ亜友。
高校1年C組で達弥を見つけ、「この泥棒猫!」と怒鳴り込む

 刃傷沙汰になりかけたという話に、岡澤は青ざめる。
達弥と一対一で怒鳴り合っても、興奮した亜友には女子生徒に見えた。

 何とか亜友を説得しようとする岡澤。
ふと、傍観していた女子生徒が亜友に大切な情報を教える。

 中学時代の岡澤と、親しかった彼女。
その彼女の、「岡澤は女の子とキスしたこともないよ」に亜友は仰天!










  第五部 −「神様、もう少しだけ」



 亜友は、岡澤の口から達弥の名を聞くと青ざめる。
だが岡澤には、達弥とストーカーとの関係など想像もつかない。

 亜友は自殺しそうに苦しむ。
しかし、教師に真相を話して助けを求めれば、亜友は退学だ。

 学年の生徒たちは噂を始める。
「岡澤のストーカー行為が原因で、亜友が自殺する」のだと。



 ところが、教師は動かない。
岡澤の弱みを握りたい学年主任は、2人の喧嘩を放置していた

 達弥の亜友に対する怒りも極限だった。
常にナイフを持ち歩き、亜友を「殺す」と言って聞かないのだ。

 このままでは、衝突は不可避だ。
だが、罠であることを知りつつ、学年主任に頭は下げられない。



 しかも、学年主任に助けを求めれば、
刃傷沙汰を起こした亜友と達弥は、2人とも退学になるだろう

 さらに、誰かに相談しようと思っても、
岡澤には、「岡澤はストーカー」という亜友の言葉に反論できない。

 「これは学年主任の罠だ」と思いつつ、
自らの無実も証明できないのに、学年主任の罠など誰にも言えない。




 岡澤の知能を結集した、咄嗟の判断。
「君を殺してやりたい」で始まる脅迫状を、亜友に手渡した。

 冒頭だけ読んで、手紙を破り捨てる亜友。
亜友は咄嗟に、自分の勘違いを岡澤に悟られたのだと思いこんだ。

 岡澤の殺意も当然だと、亜友は考えた。
母親の前で「怖い、怖い」とは言ったものの、真相はとても話せない。



 亜友は、本気で岡澤に殺されると思った。
亜友の真剣な恐怖を見て、教師たちは岡澤をストーカー認定した

 達弥含む後輩たちも、岡澤に同情した。
「自分の方こそ、亜友を殺すところだった」と、そう言って拳を下げた。

 教師に心配され、家族に心配され、
亜友は、怖がってはいたものの、自殺どころではなくなってしまった。



 もちろん、教師の認定ミスである。
だが岡澤も、まさか本当に自分が脅迫犯になるとは思わなかった

 自分が、どこかで間違ったのだろうか。
「ぼくは、本当に『ストーカー』だったのか」という疑問が、岡澤を襲った。













  第六部 −「振り返れば亜友がいる」



 謹慎処分から3ヶ月。
岡澤が無実らしいと判明するなり、学年主任の教師は青ざめる。

 すぐに亜友の退学が決定する。
しかし岡澤の猛烈な抗議により、亜友の退学は撤回される。

 亜友は、岡澤が自分を庇った話を聞き混乱する。
ところが亜友の退学に反対したのは岡澤一人、孤立無援だった。



 学年主任は、亜友を脅迫する。
岡澤と亜友の仲を破綻させて、面倒な亜友を退学にする計画だった。

 だがこの計画は飛んで火に入る夏の虫だった。
岡澤は、念には念を入れて、教師が亜友を脅迫する可能性を考えていた。

 亜友脅迫の翌日に学年主任に会った岡澤は、
開口一番に「亜友を脅迫して、言質を取ったと聞いていますが」と一撃。



 脅迫で止めておけば、学年主任も助かった。
直後、もう一人の証人である達弥を、有無を言わせず退学に追い込んだ

 泣きながら、岡澤に助けを求める達弥。
ストーカー騒ぎの真相さえ想像もつかない当時の岡澤には、達弥を助けられない。

 涙をのんで、達弥に「さよなら」を言う。
「3度までなら許してやる」という警告を破った学年主任を、岡澤は許さない。



 学年主任の盲点に、岡澤は気付いていた。
実は当時の学園内に、ストーカー騒ぎの真相を知る女の子が一人だけいた

 彼女は、学年主任を追い込める唯一の証人。
岡澤は、亜友に口止めされたという彼女から真相を聞きたかったが、危険すぎた。

 彼女が、重要な証人であることが分かれば、
5期生で最も頭の良いY子ちゃんといえども、学年主任は退学に追い込むはず。





 岡澤と学年主任の大喧嘩が始まる。
岡澤はこの喧嘩の最中、亜友を生徒相談室に避難させる。

 脅迫の泥仕合は1年近く続く。
学年主任は亜友脅迫を認めるが、生徒相手に脅迫合戦をした罪は重い。

 校長以下、学園幹部は一様に青ざめた。
最終的に、高校3年秋に岡澤が無期停学という形で決着がついた



 岡澤にとっての問題は、他にもあった。
ストーカー騒ぎを焚きつけた側の同級生は、2人の仲直りが面白くない

 ストーカー騒ぎでは、岡澤が黒星どころか、
岡澤は「亜友を庇って謹慎処分」という、一番格好いい役回りを演じた。

 これでは、ギャラリーが納得しない。
「あの2人を別れさせたら100万円!」のノリで、世界を敵に回した。



 学年主任も、この中の1人といえば1人。
だが、2人を退学にできる立場の人間が、これをやるのは軽薄に過ぎる

 校舎内で岡澤と亜友が会うのは、危険だ。
自分がストーカーだった可能性も否定できない状況で、亜友を突き放した。

 2人は、互いを信じ合って東海大を受験。
亜友の知能がどうなったのか岡澤は知らないが、奇跡的に二人の名が並ぶ。





 ここで、互いに手を引けば、「ローマの休日」だが、
休日にしては岡澤の後遺症が大きすぎて、映画のようにはいかなかった











  第七部 −「最初から今まで」



 岡澤と亜友は、卒業から2年半、完全に音信不通になる。
形式的には、自分を犠牲にして亜友を助けた岡澤が、亜友に捨てられた形


 卒業から2年後、岡澤は校長室で亜友・母に会う。
どうやら岡澤の賭けが成功したらしく、亜友の知能は完全に回復した様子。

 その可能性に賭け、生徒相談室に避難させた。
田中先生のカウンセリング治療が、成功する可能性に賭けたのだ。



 岡澤の計画など、亜友・母は知らない。
亜友・母は、身体障害者の岡澤は暴力・浮気男だったと思っている。

 亜友は真相を説明できず、
岡澤も「親には説明しなくて良い」と言っておいたら、この体たらくだ。

 亜友・母はPTA学年委員長。
学年主任は、岡澤を黙らせるために、亜友・母にさんざん嘘を吹き込んだ。


 岡澤の働きを知らない亜友・母。
「貴男には、娘の回復を祝う資格なんて、どこにもないのよ」と言い出す

 社長夫人は、さすがに高飛車。
「身体障害者の岡澤君も、娘と結婚すれば今頃社長だったのに」は効いた。

 そして社長夫人は、変なことを言う。
「でも、岡澤君も、高校時代に楽しい想い出ができたでしょう?」と、ニヤニヤして。



 何の話かと思って、聞き返すと、
昔の亜友は「岡澤に抱きしめられた」話を、「岡澤に抱かれた」と言ったらしい

 抱きしめただけでは、婚約は成立しない。
家に帰って娘に問いただした亜友・母は、卒倒してそのまま入院したのだという。

 岡澤は、最初から気付いていた。
自分の母親と、亜友の母親は、同じ種類の精神病を持っているのじゃないかと



 家に帰った亜友・母は、娘を問いつめた。

亜友・母 「ひょっとして、無抵抗の岡澤君を追いつめたのは、貴女の方じゃないの?」

亜友・母 「なら岡澤君は命の恩人じゃない。そんな大事なこと、どうして黙っていたの!」


亜友 「だって中学3年の時、お母さん、私に優しい男の人には裏があるって教えてくれたじゃない」

亜友 「お父さんが私にお菓子をくれたのも、いつも夫婦喧嘩の最中だったじゃない!」

亜友・母は、そのまま卒倒して病院に運ばれたんだと思う。







 翌年、亜友が学園に教育実習に来て、
岡澤との婚約は、岡澤が「それでも良い」と言ってくれるならとのお話で・・・・・・

 岡澤がすぐに迎えに行かなかったのは、
やはり、社長夫人にあそこまで言われて、自分から頭を下げる気には・・・・・・、ねえ。


 蛇足ながら付け加えると、
岡澤が亜友・父の会社の規模を初めて知ったのは、この大学2年の夏である。

 それまで、ヒューズを作る町工場と思っていた。
だが亜友・母があまりに高飛車なので、不思議に思って調べたら商社だったと

 達弥の性別すら間違える、16歳の亜友である。
当時の彼女の説明では、亜友・父は社長らしいことしか伝わってこなかったのだ。


 それだけで亜友を助けたのを不思議に思うかもしれない。
だが、小川三四郎探偵事務所との間で商法を適用するには、これだけで充分

 高校2年の5月の段階で、岡澤には既にこの発想があった。
だから、商法を信じて自称「社長令嬢」を助けたら、噂以上の財産家の娘だっただけだ。





 2008年、芝浦の会社には、会いに行った。
先に探偵事務所の名を送ってしまったため、亜友・父以外の人が出てきたけれど・・・

 最近では、わりと報告書も頻繁に送る。
亜友は、今年の誕生日に送ったバラの花束も、ぼくに返送して寄越したのだけど。










  第八部 −「彼の浮気相手は天国にいた」



 亜友は、2005年に公文国際学園に来た。
岡澤本人に直接連絡するには、事情が複雑すぎたのじゃないかと思う

 亜友は、岡澤が隠した秘密をまだ知らない。
「学年主任への攻撃は、気持ちは分かるが、岡澤の『やり過ぎ』だ」と思った。

 だから、母校の教師に会わせる顔がない。
教育実習の口実を使って、「岡澤を責めないで下さい」と言いに行くつもりだった。

 だが、校長は想像以上に立腹していた。





 誰もが予期せぬ、出来事が起きた。
亜友・母が警察から出頭を求められ、岡澤の元カノ殺しを疑われた

 亜友が疑った岡澤の浮気の、真相。
高校1年の岡澤は、元カノの他界を知り、彼女のことばかり考えていた。

 亜友の観察眼は、確かだったのだ。
だが岡澤の彼女は「男子寮」ではなく、天国にいたから見つからなかった。



 岡澤は、亜友を庇って教師と喧嘩したのでなく、
最初から、元カノの死因を巡り教師と喧嘩していたのだと亜友は気付く

 「もはや、私が出る幕じゃない」と思った。
岡澤が命を懸けて守ろうとしたのは亜友でなく、死んだ元カノの名誉だった。

 仲直りしたいという気持ちはあっても、
再会した岡澤にかける言葉が見つからないから、平行線のままだ。





 そんな2006年の秋の出来事だった。
岡澤が、公文国際学園に対し「ウェブ告発宣言」をして、騒ぎになった

 岡澤の友人一同の大慌てだが、
亜友にとっては、ウェブ告発より死んだ岡澤の元カノの方が重く、何も言えない。

 そんな亜友を、非難する友人女子。
だが、亜友の方から、「岡澤の元カノが死んだ」とは言えなかった。



 2007年1月、岡澤は、ついにウェブ告発。
想像以上の内容に右往左往する友人たちを尻目に、国会が炎上を始める

 「岡澤が何かやったのか?」と心配する仲間。
岡澤の元カノの自殺と、国会炎上にはさまれて揺らぐ、亜友のマリッジ・ブルー。





 2008年、友人一同はさらなる真相を知る。
娘を不憫に思った亜友・父からの相談で、岡澤の元カノが殺害されたのだと

 何としても岡澤を助けてやりたい友人たち。
だが、岡澤が犯人捜しを始めれば、真犯人は岡澤を殺害する可能性も高い



 父親は、岡澤救出に大金を投じた。
亜友の運命を岡澤に預けるつもりで、それが父親なりの罪滅ぼしだった












         政界の「走れメロス」  ← 民主党分裂の危機



         (←魔法使いのメタファー) 岡澤と亜友が元にした原作
         (←小学校時代のメタファー) 岡澤の小学校時代の原作
         (←中学2年当時の愛読漫画) その昔の物語



         ← 2007.1.18. 当時の告発が、ドラマ化されました



         (←2007.1.18.当時の文章です)
         (←「政治とカネ」問題に火がつく直前期の文章です)
         (←公文国際学園との壮絶な大喧嘩)




小川三四郎探偵事務所
代表取締役 岡澤代祐
sanshiro@sastik.com